在宅勤務、リモートワークは通勤から解放され、有効活用できる時間が増える、働き方の自由度が高いというメリットがある一方で、フォローの仕組みがなければ仕事に対するモチベーションや会社に対するエンゲージメントが低下するというデメリットもあります。その解決策として、どんなものがあるでしょうか。
1. 在宅勤務、リモートワーカーのモチベーションが低下する理由
在宅勤務、リモートワーカーのモチベーションやエンゲージメント低下の要因として、パッと頭に思い浮かぶのは「孤独感」でしょう。会社との接点が減ることで、エンゲージメントが低下するのは分かりますが、なぜ、孤独感がモチベーション低下につながるのかを動機付け理論から、確認してみます。
1-1:マズローの欲求五段階説から確認

心理学者アブラハム・マズローが提唱した欲求五段階説では、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定され、上位の欲求は、下位の欲求がある程度満たされてはじめて、現れるとしています。
在宅、リモートであっても、生きるための食欲や睡眠欲といった本能的な生理的欲求と、自分の命や財産が安定・安全である、安心して生活できるといった安定・安全の欲求は、組織に所属することで満たされています。その上の、どこかに属したい、仲間が欲しいという社会的(所属)欲求は、本来、会社に出社すれば、意識することなく満たされていたものですが、在宅やリモートワークだと直接的には感じることができなくなります。また、自分を価値ある存在と認めてほしい、尊敬されたい、承認してほしいという自我(承認)欲求も一人で働いているが故に満たされません。
結果、高次元の欲求である自己実現や成長意識も薄れ、生活のために働くという意識にとどまっていくことになります。趣味やプライベート重視となるか、これまで承認欲求や自己実現欲求を満たしてきた経験のある人、元々成長意識の高い優秀な人材は、もっと成長できる環境を求めてやめていく可能性が高くなります。
1-2:ハーズバーグの二要因理論から確認
臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグが提唱した仕事に対する満足につながる要因を『衛生要因』と『動機づけ要因』の二つで表した「ニ要因理論」で考えてみます。
衛生要因とは、職務不満を防止することはできるが、組織構成員の積極的態度は引き出すにはほとんど効果がないものとされています。言うなれば、整っていて当たり前、整っていなければ不満につながるものです。動機付け要因は、組織構成員の積極的態度を引き出すものとされています。
今、注目されている『働きやすさ』と『働きがい』という観点で言えば、衛生要因が働きやすさにつながり、動機付け要因が働きがいにつながると言えるでしょう。少し話はそれますが、残業無し、福利厚生充実、給与良しといった働きやすさは整っているのに辞めていくというのは、動機付け要因が満たされていないからと考えることもできます。
在宅、リモートワークでは、動機付け要因である『承認』の機会が減ります。承認には、何らかの結果に対して行われる『結果承認』と存在そのものに対して行われる『存在承認』があるとされています。存在承認は、存在そのものに対して行われる承認なので、日常の挨拶や何気ないコミュニケーション、ねぎらいも含まれますが、その機会がぐっと減るということです。また、承認の反対は『無視』、『無関心』ですが、何もケアしなければ、常にその状態に置かれているということでもあります。
動機づけ要因である仕事への責任や達成感も、周囲に人がいる環境と自分一人の環境とを比べると、自分一人の方が感じづらくなるでしょう。
1-3:新入社員や中途社員でいきなり在宅、リモートワークの場合は更に注意が必要
社歴がある程度長いメンバーであれば、メンバー間で元々のネットワークがあるため、在宅、リモートワークでも自分からコミュニケーションを取ることも可能です。しかし、業務内容や企業規模の関係で、新卒、中途として入社したものの、研修を終えた後は、基本的に在宅勤務、リモートワークというケースもあるでしょう。その場合、社会的(所属)欲求は感じづらく、出社していれば意識することなく担保されている、すれ違う際の挨拶や休憩時の気軽な雑談がないため、自我(承認)欲求も満たされません。当然ながら、社内にネットワークや信頼関係が構築されていないため、自分からコミュニケーションを取ることは難しく、人間関係という点においても満たされない状況と言えます。
同期入社のメンバーがいる場合は別ですが、同期がいない場合はなおさらです。中途採用者の場合、社会人経験あるから大丈夫だろうと、あまりケアされることがないかもしれませんが、同期がいないのであれば新入社員同様、もしくは、今までネットワークがあった環境から無い環境になることで新入社員以上に孤独感に陥り、モチベーション低下につながると考えていいでしょう。
2.在宅勤務、リモートワーカーのモチベーション低下を防ぐための取り組み
在宅勤務、リモートワーカーのモチベーション低下を防ぎ、エンゲージメントを醸成するために、在宅、リモートワークでも社会的(所属)欲求や自我(承認)欲求を満たすことができる取り組みや工夫が必要です。
<組織としての取り組み>
・チームでの朝礼、夕礼など毎日のコミュニケーション
・方針や施策の定期な発信、進捗状況の共有
・ピア・メンタリング
<個別フォロー>
・1on1制度
・メンター制度(社外メンター含む)
<ツール活用>
オンライン上の仮想スペースでオフィスにいるように、誰がどこにいるかがわかり自由にコミュニケーションを取れる環境を整える。 例)ovice
在宅勤務、リモートワークに関わらず、個別フォローの1on1制度やメンター制度は、取り組みとして実施する企業が増えています。しかし、きちんとした訓練を受けていない人が実施すると、1on1ハラスメントという言葉が出てきているように、逆効果になりかねないので、注意が必要です。
3.メンター制度
所属、承認、自己実現欲求を満たすという観点で、気負うことなくコミュニケーションを取りやすいという観点で、利害関係のない関係性で実施するメンター制度について確認してみます。
3-1:メンター制度とは
メンター制度は、知識や経験の豊かなメンター(助言者)が、未熟なメンティ(相談者)に対して、環境、仕事への適応支援、課題解決や悩みの解消、人間関係の築き方、意欲促進、キャリア形成や心理・社会的な成長など総合的な支援を行う制度です。本音でコミュニケーションを取りやすくすることや新しい視点での気付きにつなげるため、利害関係のない斜めの関係で実施します。
メンター制度は、通常、半年から一年の期間で、個別、定期的(隔週もしくは月1回の頻度で実施が多い)、継続的に実施されます。メンターとの定期的な交流があることで、社会的(所属)欲求を満たすことにつながります。また、ポジティブなフィードバックを受けることで承認欲求や自己肯定感を高め、モチベーション向上にもつながります。
3-2:社外メンターとは

社外メンターとは、様々な経歴やノウハウを持つ外部の人材にメンターをアウトソーシングできるサービスです。社内で実施するメンター制度よりも「より本音で話ができる」「組織や人間関係など内部で相談しづらいことを相談しやすい」「客観的な視点が気付きにつながる」「他業界や職種の経験談からヒントをもらえる」といったメリットを享受でき、状況や気持ちの整理、悩みの相談、新たな視点による気付きの提供や人間面での成長につながります。
3-3:社外メンター導入にあたってよく挙がる懸念
社外メンター導入にあたって、よく挙がる懸念を二つ紹介します。
まずは、『自社のことや業務が分からない中でどんな話ができるのか』ということです。これについては、実施目的をどこに置くかによって捉え方が変わります。社外メンターに限らず、メンター自体が業務における支援を目的としていません。社内で実施するメンター制度であっても、斜めの関係で異なる部門で実施するため、業務のことは分かりません。メンター制度の目的は、気持ちや考えの整理、ビジネススキルや人間力などの成長支援となります。
従って、自社に関する相談、業務の成長支援という観点であれば、1on1面談や社内コーチングを実施した方がいいと言えます。社外メンターには、様々な業界や職種の人がいるため、近しい業務や職種を選んで相談することも可能ですが、それでも同じ会社でない以上、業務に直接かかわるような支援を目的とするのではなく、本来のモチベーション向上、成長支援にスポットをあてて考えた方がいいでしょう。
二つ目は、「話したことがきっかけで退職につながるのではないか」という懸念です。社外メンターの目的は、相談するメンティに寄り添い、現在の状況や環境における悩みや課題の解決や成長のための支援を行うことで、転職支援ではありません。メンティが抱える悩みや課題、成長のために必要なことを客観的に整理し、今の環境でできる本人の努力を後押しする立場です。もちろん、それを受けてメンティが将来を見据え、転職を考える可能性はゼロとは言えません。しかし、それで退職につながる従業員は、元々悩みを抱えているということでしょうから、遅かれ早かれ退職していきます。
これだけ世の中に転職支援サービスが浸透し、コマーシャルが至るところで頻繁に流れている世の中で、転職を想起させない努力をするよりも、自社での働き方を客観的に捉え、社外メンターを実施する中で見えてくる構造的な組織課題を解決していく方が、対処療法ではなく根本両方として、長い目でみると、企業にとって健全かつメリットがあると言えます。
特に、新入社員の場合は、「隣の芝生は青く見える」と言われるように、他はどんなだろうと少なからず思っています。しかし、自社しか知らないが故に、「自社の環境は良くない、、「もっと成長できるのでは?」といった思い込みや認識違いも発生します。それらを、社外メンターの経験や視点で、客観的にこうだと認識してもらうことで、浮ついた気持ちで業務をするのではなく、新たなモチベーションやエンゲージメントを高める手段になります。
4.メンター制度実施準備
メンター制度は、斜めの関係で組み合わせて、後はメンター、メンティペアに任せてという形で進められるケースがありますが、シンプルな分、最初の設計をしっかりしておかなければ、あっという間に形骸化し、ムダに時間を使うだけとなってしまいます。
そのため、制度設計や実施した後の振り返りを丁寧に行い、経験をふまえて、翌年ブラッシュアップするとう形で、少しずついい制度にしていくという中長期施策として取り組むことが大切です。また、本来であればメンター研修、メンティオリエンテーションを実施した方がいいですが、最低でも実施目的や制度の理解、メンターとしての心構え、必要なスタンスやスキルを学ぶメンター研修は実施しておくことがお勧めです。
社外メンターについては、サービスを提供している企業が、複数あります。色々と確認してみるといいでしょう。
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