ここ数年、「主体性がない」「話が通じない」「指導したら反抗的な態度に」と新人、若手の育成に苦労する管理職が多いという相談が増え続けています。
その要因の一つに、新人や若手にビジネススタンスが確立していないことがあります。
「知識・スキルよりも、まずスタンス」
プロの研修講師が育成にあたり、常に基本としていることです。
受け入れる素地、適切に行動するための素地をつくらなければ、どんなにいい教育も効果がないからです。
1.ビジネススタンスが確立していないことによって起こる悩み・問題
例えば、仕事に取り組む基本的なスタンスができていないことによって、現場の育成担当は、下記のような悩み、問題にさらされることになり、最も重要な実務に関する指導育成以外のことに時間を割かれ、ストレスもたまります。
・自ら動くことができない、言われたことしかしない
・他責や言い訳が多い
・相談もしてこないので仕事を任せることができない
・指示した通りに動かない。よって結果が出ない
・同じようなことを何度も聞いてくる
・知識、スキル、経験がない中で、自己判断で動いてしまう
・相手の立場に立った行動ができていない
・質問をしても、こたえが返ってこない
これらの悩みや問題は、新入社員に「主体性」「素直さ」「疑問を持ち、解決する」「本質まで掘り下げる」といったビジネススタンスが確立していないことが要因です。スタンスを身に着けない限り、どれだけ指摘、叱ったとしても、本質的に理解していないため、なかなか改善してきません。
逆にビジネスマインドやビジネススタンスが確立していれば、知識やスキルは自ら学び、実務の中で自然に身に着いていきます。
したがって、敬語や立ち居振る舞い、電話応対、報連相を学ぶことも大切ですが、新入社員研修の必須コンテンツとして、ビジネススタンスの確立を盛り込むことが欠かせません。
2.スタンスの特徴と浸透のさせ方
しかし、スタンスは、「主体性が大事だ」、「素直になれ」と言葉で伝えてもピンとこないどころか、人から指摘されると、素直に受け入れづらいという特徴があります。
そこで、気付いた時に、そう感じた具体的事例と何故そのスタンスが必要なのかという背景や理由を添えて、都度、指摘やアドバイスを行うことが大切です。
例えば、主体性については、「できるアクションがあるのに、自ら考えて動かなかった」という現場での事例があった際に、すぐに指摘・アドバイスを行います。時間がたつと、何のことを言われているのか分からないからです。
<実施の流れ>
1.状況(事実)確認:自分の認識違い、やむを得ない事情が無かったかなど、事実・経緯確認。頭ごなしに伝えると、受け入れ拒否の度合いが増すだけとなる。
2.育成者の思いを伝える:状況確認の上で、スタンスが至らないことが分かった場合、「こう考えてこう動いて欲しかった」という身に着けて欲しいスタンスと背景や理由を伝える
3.今後について:今後どうするかを一緒に考える
その際、状況(事実)確認を行うと、実はやろうと思っていたけどできなかった、という回答が返ってくることもあるでしょう。
その場合は、『言い訳すんじゃないよ』と思うのではなく、ビジネススタンスを落とし込むチャンスと捉えましょう。実際、そうだったかもしれないからです。
そこで、「経験がないことに対する行動は、想像以上に難しい」ということ、「思っているだけではダメで、行動に現わさないと意味がない」ということ、「主体性の有無は、成長の差に直結する」といったようなことを事例を交えながら伝え、今後について、一緒に考えていきましょう。
スタンスは、スキルではなく価値観や考え方に踏み込むため、面と向かって伝えづらいことですが、新入社員の時に、ビジネススタンスの確立を怠ると、成長しないため、育成に関わる人間の責任として覚悟して伝えていく必要があります。
3.配属前のケーススタディがお勧め
配属先で育成に関わるOJT担当者や上司の負担を減らすために、内定者や新入社員研修で、ビジネススタンスについて触れておくだけでも、現場でそれを引き合いに出して指導しやすくなります。
特に、ケーススタディは、自ら考えることで自然に理解ができるという点でお勧めです。OJT担当者や上司から、新人の育成において困ったことや悩んだ事例を集めて、自社版ケーススタディを作り、実施してみましょう。
【自社でビジネススタンスビルディングを実施するために】
スタンスを、自然に理解するためのケーススタディセットを販売しています。
集合型、テレワークでのグループワーク、事前学習など、様々な形式で活用頂くために
・買い切り型、MP4形式動画
・ケーススタディワークシート
・人事向け解説シート
の3点セットでです。
また、何度でも利用できるようにデータでの提供です。
「スタンスビルディング ケーススタディセット」詳細は こちら
弊社主催の指導育成研究会で共有された人材育成の取り組みでうまくいったことや困ったこと、悩み、解決案の抜粋をまとめました。
【うまくいった、いっていること】
VISION MTG |
「将来どうなりたいか」をグループで面談。事前に準備をしてきもらって当日は共有のみ。想定した以上に、皆しっかりと考えており前向きな時間となって意味があった。 |
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「聞く」ことだけを目的とした面談 |
「今日は聞くだけの面談だから」といって時間を開放する。原則として自分は一切話をせず、聞くことだけに徹すると相手は想定した以上にたくさん話をしてくれる。中には涙を流す人も。自分が知らないことをたくさん知る機会にもなり、信頼関係が構築される。 |
一日の良かったこと、うまくいったことを毎日共有 |
成果が出ない、自信のないメンバーであっても毎日良かったこと、うまくいったことを洗い出して確認することで、わずかでも成長を感じることにつながる。少しずつ表情が明るくなっていった。指導側も「相手ががんばっているんだな」ということに気付く機会となり、相手に対する印象も変わっていく。 |
ツールの活用 |
持ち味カードを活用して、自己認知の機会を設けてキャリアプランを考え実行してもらう。 |
仕組みで育成 |
定期的な社内テスト:理念や規範の解釈等のテストを実施→評価に連動 |
新人向けの一般常識勉強会 |
中途新人向け(入社直後~1年前後)の一般常識勉強会を月2回実施。一般常識テスト+その事象が私たちのビジネスにどう影響するのか等をゲーム感覚で実施。 従来、先輩社員とのMTGだとなかなか若手が発言が出来ない状況だったが、若手中心での勉強会を実施することで、参画意識や積極性は出てきている。 |
Be(あって欲しい)とDo(具体的指示)を分けて共有 |
一方的な指導ではなく、考えて行動ができるような人材に育ってもらうために、どうあってほしいのかを伝えるようにしている。 ただし、人によってアプローチを変えた方が良い。 (Beだけだと動けない方もいるため、Beからの具体的指示等) |
社内に教育委員会という組織を作ったこと |
教育に関心の高い人が自ら手を挙げて、教育委員会の運営を行っている。(4年間継続中) 年間計画から講師コーディネート等も委員会で実施。 教え合う風土が醸成されてきている。育成マインドを持ったプレイングスタッフが育成できてきた。 |
業績MTGのみ→個別MTG実施 |
業績MTGだけだと、本音が見えない状況であったため、個別のMTGを月に1回2時間程度実施。業績とは別にこれをやりたい、という目標を定め、その進捗状況の確認やモチベーションの確認等。見えたくない部分も見えてきたが、本音を把握することが出来つつある。 |
まず考えを受け止め、そう思った理由を聞く |
相手の話すことを否定はせず、まず受け止めて、その後に、どうしてそう思ったのか自分で考えてもらうことを徹底させる。 例)2チームある中で、一つのチームは徹底的に指示をさせていたが、自分がみていたチームは、常に考えてもらうことを実施していた。徹底的に指示を行っていたチームは早い段階で成果を出し始め、ずっと成績は負けていたが、一年で逆転し、その後は考えてもらうチームの方がずっと成績が良かった。 |
考えてもらい、突き合わせ、議論・修正を定例実施 |
対象:知識・スキル・経験豊富、更に成長させたい、一段ステージをあげたいメンバーもしくはマンネリに陥りモチベーション下がり気味のメンバーに対して。 |
マネジメントをやりたがらない |
期待が重すぎるのではないか。 |
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担当しているメンバーの成長をたすけられているのかわからない |
考えすぎ? |
「なぜ」というワードは指導育成にはよくない? |
「なぜ?」は聞いている側にその意図はなくても、相手からすると責められていると感じることがある。また、知識やスキル、経験が浅いと答えられないことも。回答しやすい質問に切り替える。 |
キャリアプランがなかなか描けない方の育成 |
キャリアプラン作成は、そもそも難易度が高いものであり、毎年実施することで精度があがっていくもの。初めての時は、難しく考えすぎずに毎年ブラッシュアップしていくことを前提に、まず作ってみること、作成したプランを一緒に確認していく中でアドバイスを行う。 |
年上の部下・メンバーに対する対応(特に指摘や叱る必要のある時) |
皆がいる前で行うのではなく、個別対応を行う。 |
アメとムチの次 |
従来は、インセンティブ要素を強くしたり、勢いで事業運営を行ってきたが、年齢等から生活の安定性も重要になり固定給で保証をしている。そのような中、アメとムチの次に必要なものを模索中 |
属人化した指導 |
教える人が、相手の成長ステージに応じて対応を変化させるということをできるようになる。 知らない場合(知識・スキル・経験無し)は、マニュアル等も活用しながら、丁寧に教える。知識・スキル・経験があがってきたら、考えさせる度合を増やしたり、チャレンジしてもらうことを増やす。(失敗することが分かっていても、チャレンジさせることもあり)指導育成に関わる人全員が、その概念を持つ。 |
メンター制度におけるメンタリング、1on1面談、ミーティングなど、1対1のコミュニケーションが注目されています。
対象となるメンティや部下、後輩の定量面、定性面の成長につながるだけでなく、実施するメンター、上司、先輩も気付きを得ることができ、傾聴力、受容する力、伝える力、提案する力などスキル向上にもつながるからです。
弊社もメンター制度運用支援や1on1面談制度を育成文化醸成のコンテンツとして強く推奨していますが、これらは定期的かつ継続して実施することで効果を発揮するものとなります。
定例で実施することの効果について、実際の事例から確認してみます。
下記は、ある組織での定例面談の結果です。この一枚の中にも、面談の効果が多く表れています。
①メンバーが自分で気付く
メンバーがリーダーを目指すという中での面談ですが、当初は「リーダーにはどうすればなれるのか」と上司に質問があった状態から、メンバー自身が、「メンバーをフォローすることがリーダーの仕事だと気付いた、リーダーの役割は人から教えてもらうばかりでなく現場で気付くことだと思った」と変化しています。
定例で振り返ることが分かっているからこそ、自分で一生懸命考え、自分なりの結論にたどり着くことになります。
②意識変化のきっかけのヒントがみつかる
そもそも対象メンバーが「リーダーを目指そう」となったのは、メンバーの姉が仕事で主任になったことでした。意識の変化は、ふとしたことやささいなことがきっかけになることも多い、ということを認識し、事例を集めることでメンバーを動かすヒント探しにつながります。
③メンバーの変化に上司が気付くことができる
対象メンバーの気持ちの変化に気付くことができます。定例面談を継続していくことで、信頼関係が強化され、様々なことを含めた本音のコミュニケーションができるようになるほか、何より、相手のちょっとした変化や違和感に気付くことができるようになります。
④意識の変化で主体性につなげることができる
上司の学びとして、「相手のこうなりたいという意識の変化をキャッチすることで、相手をその気にさせることができる」とありますが、人は自分で考えたことこそが、最大の動機につながります。それを促すには、定例で確認することが有効です。
⑤意義、効果のあるサポートができる
定例の振り返り、フィードバックを継続することで、相手が今何を考え、何を必要としているかが分かります。それをおさえた課題の提供やサポートを行うことで、確実に目的、目標に近付けることができ、成長を促すことができます。
以上、実際の事例を元に5つの効果を共有しました。
多くの気付きや学び、変化、成長が、発生しています。
これらの成果は、継続的な実施により、「相手の変化や意図に気付く感度が高まる」「振り返り・内省・気付きや学びを得る力が高まる」結果と言えます。
面談は、定例で行うこと、継続することによって得られる効果が高くなっていくのです。
人材育成は難しい、とよく言われますが、日常業務の中に、育成、成長の種はいくらでも転がっています。これらの取り組みを、全社的に回すことで、育成文化の醸成、育成力の向上は実現します。
1on1面談研修は こちら
面談コミュニケーションスキル動画(MP4ファイル、買い切り型)は こちら
メンター制度支援は こちら